メンタルヘルス問題
メンタルヘルス問題
精神疾患による休職者が職場へ復帰ないし、リハビリ勤務する際の会社の判断のあり方が、今、大きな課題となっております。 当事者である従業員本人と人事担当者、職場の上司、そして、産業医、主治医など、それぞれの立場や考え方が異なることが多く、最良の判断が難しいケースが増えているためです。 復職の問題で、よく直面する具体的な事例をとりあげて、法的な側面から押さえておくべきポイントと本人、そして職場のことも配慮した現実的な対応をサポートいたします。
 
 


うつ病等の精神疾患に罹患した報告があがってきたときに、人事労務部門がまず確認しなければならないのは業務起因性の有無。業務起因性の判断する労働基準監督署の判断の拠り所となる通達・指針や労災認定率を見てみると、業務起因性は認められにくい傾向にあると言ってよいでしょう。

労災申請に発展するようなシリアスな事案でも認定件数は4件に1件程度
  確かに、精神疾患に関する労災申請や訴訟提起は増えています。しかし、その認定率や許容率は必ずしも高くはありません。
例えば、労災補償状況は、平成11年度には請求155件に対して認定は14件であり請求件数に対する認定率は9.0%にすぎません。このうち、自殺(未遂を含む)事案での請求93件に対し認定11件で認定率11.8%、自殺以外の事案での請求62件に対し認定3件で認定率4.8%にとどまっていました。この後、平成11年9月14日に認定基準が改訂され、平成21年度では、全体で請求1136件、決定852件、認定234件で認定率(認定/決定)は27.5%。自殺事案では請求157件、決定140件、認定63件で認定率は45.0%であり、自殺以外の事案では、請求979件、決定712件、認定171件で、認定率は24.0%。
過労死(脳血管疾患および虚血性心疾患)の認定率は40%前後であるのと比較したとき、特に自殺以外の事案の認定率は低いといえます。しかも、精神障害等の労災補償状況では、平成20年度と比較したとき、平成21年度の請求件数が927件から1136件と約23%増えましたが、その大半を自殺以外の事案が占めています。
このように、自殺以外の事案は、労災申請しても4件に1件しか認められないのが実情です。ほとんどのケースが私傷病として傷病手当金を申請をするケースが多い中、労災請求された約1000件は比較的シリアスな事案だと思われますが、それでも認定率はこの程度にとどまっています。
   
 
精神疾患の業務起因性の判断基準について
  心理的負荷による精神障害の労災申請については、平成11年9月14日付通達「心理的負荷による精神障害等に係る業務場外の判断指針ついて」に基づき業務起因性の判断が行われていましたが、平成23年12月26日通達で新たに「心理的負荷による精神障害の認定基準について」が公表されています。平成23年12月26日通達は、従来から労働基準監督署において用いていた業務起因性の判断基準を改めて通達として発した内容となっており、とりわけ判断基準が厳格化されたわけでも緩和されたわけでもないようです。
心理的負荷による精神障害の認定基準について」において、長時間労働がある場合の評価方法として、「160時間」「120時間」という数字が見られるように、業務起因性が認定されるには、かなり高い基準が設定されていることがわかります。
 

精神疾患関連の診断書が出てきたら業務起因性の可能性があるかどうかを検証する
   精神疾患関連の診断書が出てきたら、まずは業務起因性の可能性があるかどうかを検証します。平成23年12月26日通達「心理的負荷による精神障害の認定基準について」を参考に、”極度の長時間労働””出来事としての長時間労働”の有無について確認します。業務起因性がほぼ確実に見込まれることがなければ、私傷病として対応します。また、平成23年12月26日通達では、「@認定基準の対象となる精神障害かどうか」において、ICD-10第X章「精神及び行動の障害」分類を用い業務に関連した発症する可能性のある精神障害の代表的なものは、うつ病(F3)や急性ストレス反応(F4)などといっています。特に昨今取り上げられることの多いパーソナリティー障害(F6)は生来的な個人の性格によるもので業務起因性の可能性があるとはいわれていないようです。
 



復職の可否を検討する上でも、主治医や産業医から得た情報を利用する上でも、会社側が休職とする正しい理由を知り、休職に入る段階で正確に本人に伝えてこくが必要です。休職の理由を「病気だから」としてしまうと、復職基準、基準へのあてはめ、医師とのやり取り、すべてがズレてしまいます。

「抑うつ状態」の診断書を持って休職の申出をしてきた
   上記のとおり、平成23年12月26日通達「心理的負荷による精神障害の認定基準について」においてICD-10の「精神及び行動の障害」 の分類により病名と業務起因性との関連を示しています。『抑うつ状態』とは、どの病名にも見られる状態であり病名とは異なります。業務起因性を調査する材料として、病名診断を早い段階で行うことが必要です。主治医に病名の診断を求めるか、精神科医などの会社指定医に病名の診断をしてもらうことになります。
   

休職の理由は、労働契約で求められている「労務提供ができない」こと
  休職に入る際は、労働者から主治医の診断書付きで休職が申出され、会社がこれを認めるケースが多いと思われます。このときの休職理由は「病気となった」ことではありません。休職となる理由は、病気が原因で、労働契約(約束)で当該労働者に求められている「労務提供できない」ことです。法律的に翻訳すると、本旨に従った債務の弁済ができないこと(本旨弁済の不履行)ということになります。主治医の「病気となった」診断書は判断資料にすぎません。最終的には、「本旨弁済ができるか」という会社の判断に基づいて休職い入ることになります。
 休職に入る際に、当該労働者に休職の理由は「病気になった」ことではなく、約束どおりの「労務の提供ができない」ことであることを十分に説明する必要があります。このことを踏まえると、復職基準、つまり、治癒とは、単純に、「約束どおりの労務の提供ができるかどうか」となり、その判断者は会社となります。 そして、そのことを休職に入る際に、労働者に十分知っておいてもらう必要があります。
 

休職は解雇の猶予措置
  労働契約では、労働者は労務を提供する義務があり、使用者は賃金を支払う義務があります。労務提供ができない以上、使用者は労働契約を解除することができます。しかし、病気が原因であるので、しばらく待てば治癒して労務提供ができるようになる可能性はあります。このため、休職は解雇の猶予措置という法的性格を有しています。本来は個別状況に応じて猶予期間が判断されるべきですが、就業規則によって期間が画一的に決定することが可能です。休職期間を就業規則に定める意義は、個別判断しなくてよい点にあります。
 

復職判断を視野に入れて休職理由を特定する
  一定期間後に復職の可否の判断がなせれますが、復職を認めるのは、解雇せずに足りる程度に「労務提供ができる」ようになったことを意味します。休職に入る判断では「労務提供ができない」状況を的確に特定しておくことが不可欠となります。
この結果として、例えば、出勤が安定しない、仕事が不正確である、仕事が遅い、同じことを何回も繰り返す、簡単なこともできない、上司・同僚など周りの社員との協調性がなく社員適格性に欠けるなどの休職前の労務提供上の問題点が克服されていることが復職時には求めることになります。
休職時と副将判断時の状況を対比するために同一の人事担当者、現場の上司、産業医が面談することが適切です。
実務では、休職前段階で心身の不調による出勤の乱れなどがみられることが多く、この時点で既に安定的には「労務提供ができない」状況にあるといえます。 休職理由の特定においては、この段階での状態をも考慮すべきであり、業務内容を精緻に分析して厳格に特定する必要はありません。
 

特に重要! 休職期間中に会社に求められる対応
休職期間中にコンタクトを取ることは労働契約上許される
  一部の医師や見識者からは、休職期間中に会社が労働者に接触することについて、否定的な見解が示されています。休職を医学的に治癒する期間として捉える場合、会社との接触が治療に悪影響を与えることを危惧するのであろうと推測できます。
しかしながら、休職期間中においては、会社と労働者との間では労働契約関係が維持されています。解雇猶予を続けるか、さらには復職できる見込があるかを、休職期間中でも、会社が労働者に聴取する必要はあるし、労働者には少なくとも信義則上協力する義務があるといえます。
休職期間中の状況を労働者に申告させる
  実務では、休職期間中も1カ月または2カ月に1回の頻度で、主治医による当該労働者の診断書が会社に提出されます。この場合、一言一句違わない表現の診断書が郵送されることが通例です。
しかし、休職期間満了が近づくとなると、突然に「復職を可とする」とだけ書かれた診断書が提出されることが多い。これでは、この時点までにどのように「労務提供ができる」ように好転してきたのかが全く分かりません。
そこで、復職判断を適切に行うためにも、休職期間中の状態を労働者に申告させるべきです。診断書だけでなく、活動や睡眠に関する記録や投薬服薬状況についても提出を求めます。「労務提供できるか」という判断のためには、産業医ではなく、その判断をする人事担当者や現場の上司が面談することも不可欠となります。 
会社の情報収集は「努力」すれば足りる
  もっとも、このことは会社が休職中の労働者と実際にコンタクトをすることを求めるものではありません。コンタクトを受け入れるか否かは労働者にかかっているといえます。受け入れなければ復職判断において労働者に不利に評価されるだけのことです。会社としては、努力はするが、その努力は報われない方が良い場合もあります。
プライバシーや病状悪化の恐れといった問題についても、このような任意の手段である限りは、懸念することはなくなります。事案ごとの判断にはなりますが、画一的に休職中の労働者と距離を置くことが求められてることではありません。 
 



「復職させるべきか」の最終的判断は会社が行いますが、その判断ポイントは意外なところに隠されています。大切なことは、最終判断までにどようような意図を持ってどのようなプロセスを踏むのか戦略的ストーリーをもって対応することです。

復職の基準は「労務提供できる」ようになること
  労働契約上の労働者の義務は労務提供することです。労務の提供は権利ではなく義務です。従って、復職の基準は「労務提供ができる」ことに尽きます。どの職務について「労務提供できる」かは、労働契約(約束)で当該労働者が求められている職務についです。つまり、現職基準が妥当します。 厚生労働省発表の『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き』(平成21年3月改訂)が「『まずは元の職場への復帰』の原則」を強く説く以上、休職前の現場に戻すことを前提に判断します(現職基準)。職場要因と個人要因の不適合が生じている場合であっても、同手引きは配置転換を積極的に勧めていません。 
 

リハビリ勤務は復職判断の基準を下げてしまう面もある
  復職時の業務遂行の程度については、「従前の職務を通常程度遂行できる」ことが求められます。従って、論理的には、復職後のリハビリ勤務は必要ありません。もちろん、実際には、復職後の就労についての配慮を行う必要はあります。しかし、リハビリ勤務に耐えられる程度では「労務提供できる」とはいえない。むしろ、リハビリ勤務制度は復職判断の基準を引き下げる恐れがあるといえます。その結果として、当該労働者の症状を悪化させたり長期低迷させたりするリスクの可能性を大きくしてしまいます。
リハビリ勤務を復職基準には使うべきではないと考えます。つまり、復職基準はあくまでも現職基準。ただし、復職基準をクリアーしている労働者に対して、最初から従前同様に勤務させるのではなく、恩恵的に短時間勤務から始める意味でのリハビリ勤務であれば一考に値すると考えます。 
 

復職判断する際の資料は労働者側に提出責任がある
  復職可否判断は、解雇猶予期間満了に伴い労働契約終了という効果を生じさせるか否かの労働契約上の判断となります。そのため、最終判断権者は当然会社にあります。
この判断には、合理性が求められ、判断資料が必要となります。しかし、判断資料の提出責任は労働者にあります。会社に求められるのは判断資料収集の「努力」にとどまります。判断資料は労働者側にあるので、会社は労働者に資料提出を求めさえすれば足ります。
なお、前掲の『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き』では、主治医の判断について、「病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、それはただちい職場で求められる業務遂行能力まで回復しているか否かの判断とは限らない」としています。また、「労働者の家族の希望が含まれている場合もある」ともしています。
主治医の診断書を妄信することなく、労働提供を安定的に続けられるか、仕事を任せられるか、周囲の労働者が当該労働者と一緒に仕事ができるのかという視点で、当該企業が判断すべきです。 
 

業務軽減や時間短縮といった会社側の配慮は不可欠
  復職判断において「従前の職務を通常程度できる」ことを基準とすれば、復職後の心配は小さくなる。早期に、少なくとも所定労働時間フルに労務提供できる状態になることを前提としている。
もちろん、復職後に業務軽減や時間短縮の配慮を会社が行うことが不可欠である。もっとも、これはあくまでも会社の「配慮」であり、労働者の「権利」ではありません。会社は会社の利益のために配慮するのであり、労働者はその反射的利益を享受するにすぎません。 
 

企業が復職を慎重に判断する例もある
  復職について慎重に判断する企業も増加しています。それでも、明らかに「労務提供できない」という特段の事情がある場合を除いて、復職させるのが通例のように思われる。
復職させた場合は現場の上司や同僚らの協力が不可欠であり、そこに大きな負担が生じる。ラインケアを強く求める声も一部にはあるが、ラインケアは管理職の本来の職務ではない。安易に現場に責任を転嫁する方向性は失当のように思われる。
復職の可否の判断を丁寧かつ時間をかけて行う過程で、退職という選択肢が浮上することもある。社会的責任など誰にどのような責任が課せられるのか曖昧な美称にとらわれず「地に足の着いた」対応が始まっています。
企業が復職させることで生じる責任とリスクを自覚することは法的には相当であるといえますが、労務管理の実際の場面では悩ましい点も多く、難しい個別対応とならざるを得ないでしょう。
 

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